ロボットの運動制御

マクロ力学と制御 ─ 重心-ZMPモデル

人とロボットの運動計算基盤で述べた通り、人のマクロな運動は重心と外力との関係、より具体的に言えば「重心加速度は外力に比例する」という関係によって表現できます。 したがって外力をうまく操作してやれば、重心を制御できるはずです(Witt 1968、山下ら1972、藤本・河村1995)。

しかし、外力はどのようなものでも与えられるわけではありません。 具体的には、

    1. 接触点を押す方向にしか力を発生できない
    2. 最大静止摩擦力を超える力は出せない

という二つの制約条件が課されます。 前者の方がより深刻で、これは、外力の圧力中心が支持領域内(地面に接触している点群が作る最大領域)にある、という条件で置き換えられます(Vukobratovicら1969)。 反力中心は、その点まわりに生じる力のモーメント(トルク)の水平成分がゼロとなることから、ゼロモーメント点、略してZMPとも呼ばれます(Vukobratovicら1972)。

重心と外力の関係は、(1)人の全質量が重心に集中している、(2)重心の高さは一定とみなせる、という二つの近似条件の下で、重心とZMPの関係に置き換えることが可能です。 すなわちこのとき、ZMPを操作することは、外力そのものを操作することとほぼ等価であるということです(水戸部ら1996)。 これは、ZMPと重心との関係が倒立振子と同じ力学的性質を持つ(長阪ら1999)ことに由来します。 では、ZMPをどのように操作すれば良いのでしょうか?

力学変容

ひとくちに人型の制御と言っても、たとえば立った姿勢を維持する、倒れそうになったときに踏み出す、足を交互に踏み替えて歩くなど、目的は様々です。 重心-ZMPモデルで表される共通の支配方程式と制約不等式の下に、目的に応じて制御器を設計しなければなりませんが、全く異なる制御器を個別に用意し、状況に応じて切り替えるのは、二つの理由で好ましくありません。 第一に、「状況」とは、きっちり判別できるほど境目が明確なものではありません。 境目が明確であることを前提とする制御器は、状況変化に対しとても脆弱なものです。 第二に、個別に作った制御器の間のつながりが不明なままでは、さらに上位の概念である行動を設計できません。

重心-ZMPモデルの利点の一つに、ZMPが支持領域内にあるという条件も含め、運動を容易に可視化できることがあります。 本研究では、相平面(位置を横軸に、速度を縦軸にとったグラフ)の上で可視化された重心の振る舞いを元に、立位制御から始めて自励振動足の踏み替え踏み出し歩行へと連続的に遷移するような制御器を設計しました。 環境との接触点の変化が作る受動的な系の変容に制御器が作る随意的な系の変容を同期させるこの枠組みを、力学変容と名づけています。

【参考文献】

  • 熱田洋史, 杉原知道, 力学変容に基づく二脚ロボットの左右方向移動制御, 第19回ロボティクスシンポジア, 有馬グランドホテル, 1B4, pp.49-54, 2014. 3.15.
  • T. Sugihara, Reflexive Step-out Control Superposed on Standing Stabilization of Biped Robots, 2012 IEEE-RAS International Conference on Humanoid Robots, pp.741-746, Osaka, Dec. 1st, 2012.
  • T. Sugihara, Biped Control To Follow Arbitrary Referential Longitudinal Velocity based on Dynamics Morphing, 2012 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems, pp.1892-1897, Vilamoura, Oct. 9th, 2012.
  • T. Sugihara, Consistent Biped Step Control with COM-ZMP Oscillation Based on Successive Phase Estimation in Dynamics Morphing, 2010 IEEE International Conference on Robotics and Automation, pp.4224-4229, Anchorage, May, 6th, 2010.
  • T. Sugihara, Dynamics Morphing from Regulator to Oscillator on Bipedal Control, 2009 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems, pp.2940-2945, St.Louis, Oct, 13th, 2009.
  • T. Sugihara, Standing Stabilizability and Stepping Maneuver in Planar Bipedalism based on the Best COM-ZMP Regulator, 2009 IEEE International Conference on Robotics and Automation, pp.1966-1971, Kobe, May, 15th, 2009.

※本研究は、文部科学省科学研究費補助金若手研究(B)(課題番号:#20760170)、文部科学省科学研究費補助金若手研究(A)(課題番号:#22680018)の支援を受けました。

即順応・遅順応を用いたフィードバック・リーチング制御

※千葉工大未来ロボット研究所(当時)の瀬戸先生との共同研究です。

人の運動の中でも、リーチング(ある場所に向かって手をのばすこと)は基本的な動作ですが、実はこんな簡単なことさえ、その制御メカニズムには分かっていないことがたくさんあります。

人のリーチング動作の軌跡を調べてみると、速度は綺麗な左右対称の釣鐘形の曲線を、加速度は正弦波状の曲線をそれぞれ描くことが知られています(Abendら1982)。 このような性質を持つ制御器の設計はあまり簡単ではなく、ほとんどの従来研究は、時刻の関数として表現される軌道の設計方法を議論するものでした(Flash&Hogan 1985, Unoら1989, Tsujiら2002など)。 数少ない制御の研究例でも、外乱に対し過敏であったり(Hoff&Arbib 1992)、外乱の存在を仮定していなかったり(Sekimotoら2006)、いくつか問題をはらんでいました。

本研究では、手先の目標位置を中心に非線形な力学場を発生させ、かつ目標への到達度合いに応じてゆっくりと、また外乱による目標からの逸脱度合いに応じて即応的に、力学場を変形させる方法を提案しています。 これにより、外乱に対しては柔軟に振る舞い、外乱が除去されたらすみやかに人のような滑らかなリーチング動作へと復帰するような制御が実現されます。

【参考文献】

  • F. Seto and T. Sugihara, Motion Control with Slow and Rapid Adaptation for Smooth Reaching Movement Under External Force Disturbance, 2010 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems, pp.1650-1655, Taipei, Oct, 19th, 2010.
  • F. Seto and T. Sugihara, Online Nonlinear Reference Shaping with End-point Position Feedback for Human-Like Smooth Reaching Motion, 2009 IEEE-RAS International Conference on Humanoid Robots, pp.297-302, Paris, Dec, 8th, 2009.
  • F. Seto and T. Sugihara, Online Reference Shaping with End-point Position Feedback for Large Acceleration Avoidance on Manipulator Control, 2009 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems, pp.5743-5748, St.Louis, Oct, 14th, 2009.

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